企業別レビュー
有価証券報告書・5年間レビュー
対象期間:2022年3月期〜2026年3月期
事業の内容
幅広い産業分野にまたがる事業構成
三菱商事は、天然資源の開発から商品の売買・製造、コンシューマー向けの商品・サービス、金融・物流などまで、国内外で幅広く事業を展開しています。2022年3月期には、天然ガス、総合素材、石油・化学ソリューション、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発の10の事業セグメントで構成されていました。天然ガス・金属資源などの資源分野から、自動車、食品、小売・流通、電力、不動産・都市開発までを含む構成です。(有報 2022年3月期)
2023年3月期も10グループ体制が続き、天然ガス、総合素材、石油・化学ソリューション、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発という基本的な構成は維持されました。2024年3月期には「石油・化学ソリューション」が「化学ソリューション」となりましたが、この時点でも報告セグメントは10グループで構成されていました。(有報 2023年3月期、2024年3月期)
2024年度に10グループから8グループへ再編
事業構成の転換点となったのが2024年度です。2025年3月期の報告セグメントは、地球環境エネルギー、マテリアルソリューション、金属資源、社会インフラ、モビリティ、食品産業、S.L.C.、電力ソリューションの8グループとなりました。従来から名称が続く金属資源、食品産業、電力ソリューションに加え、「自動車・モビリティ」は「モビリティ」となり、地球環境エネルギー、マテリアルソリューション、社会インフラ、S.L.C.という区分が設けられています。(有報 2025年3月期)
新しい区分では、地球環境エネルギーが天然ガス・LNGの開発・生産、LPG・石油製品に加えて次世代エネルギーを扱い、マテリアルソリューションが石油化学、基礎化学、機能素材、炭素・セラミックス、鉄鋼製品などの素材分野を担っています。社会インフラには都市開発・不動産、データセンター、船舶、宇宙航空機、産業機械、エネルギーインフラなどが含まれ、S.L.C.では生活者向け事業と金融・デジタル・物流などを組み合わせた事業が位置付けられています。(有報 2025年3月期)
2025年度も8グループ体制を継続
2026年3月期も、報告セグメントは地球環境エネルギー、マテリアルソリューション、金属資源、社会インフラ、モビリティ、食品産業、S.L.C.、電力ソリューションの8グループで構成されており、2024年度に再編された区分が継続しています。地球環境エネルギーでは天然ガス・LNG、LPG・石油製品と次世代エネルギー、モビリティでは自動車の生産・販売・販売金融・アフターサービスに加えてモビリティサービスやEV・バッテリー関連事業、食品産業では原料の生産・調達から製品製造までを扱うなど、各グループが複数の事業領域を包含する構成となっています。(有報 2026年3月期)
なお、2026年3月期の有価証券報告書では、事業年度末までの報告セグメントは8グループですが、提出時点の組織については、地球環境エネルギーグループと電力ソリューショングループを統合したエネルギー&パワーソリューショングループを含む7グループ体制への再編が記載されています。このため、5年間の報告セグメントの比較では2026年3月期までを8グループとして扱い、その後の7グループ体制とは区別する必要があります。(有報 2026年3月期)
5年間を通すと、2022年3月期から2024年3月期までは10グループを基本とする事業構成が続き、2025年3月期に8グループへ再編されました。資源、素材、モビリティ、食品、生活者向け事業、電力・エネルギー、インフラなど幅広い分野を持つ点は共通していますが、事業を束ねる区分はこの5年間で組み替えられています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
事業の状況
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
「中期経営戦略2024」から「経営戦略2027」へ
5年間の前半では、「中期経営戦略2024 MC Shared Value(共創価値)の創出」が経営方針の中心となりました。2022年5月に策定された同戦略では、地政学リスクの高まり、グローバルサプライチェーンの再構築、デジタル化、脱炭素といった事業環境の変化を踏まえ、幅広い産業知見とグローバルネットワークを「つなげる」ことで三菱商事の総合力を強化し、社会課題の解決を通じてMC Shared Value(以下、MCSV)を継続的に創出することを掲げました。Energy Transformation(EX)やDigital Transformation(DX)、成長分野への投資を進めながら、収益基盤の維持・拡大とROE二桁水準の維持・向上を目指す方針です。(有報 2022年3月期〜2024年3月期)
中期経営戦略2024では、投資による成長だけでなく、事業ポートフォリオの入れ替えや資本効率向上を組み合わせる「循環型成長モデル」も重視されました。2024年3月期には、投資決定済み案件の収益化、成長戦略に基づく投資、MCSV戦略投資を進める一方、戦略的な事業ポートフォリオの入れ替えと資本効率向上を進めたと説明しています。(有報 2024年3月期)
この方針の下、2024年度からの組織については、それまでの「営業10グループ+2部門(産業DX部門・次世代エネルギー部門)」から「営業8グループ」へ改編されました。会社はその狙いを、事業戦略・テーマに沿って最適な推進体制を再構築し、よりスケールのあるMCSVを創出することと説明しています。前節で確認した事業セグメント再編は、こうした経営方針を背景に行われたものです。(有報 2024年3月期)
2025年4月には、新たに「経営戦略2027-総合力をエンジンに未来を創る-」を策定しました。事業環境について、地政学リスクと経済情勢リスクが複雑に絡み合い、地域ごとに異なる脱炭素への対応やAIの急速な発展も加わって、政治・経済・環境・技術の各面で不確実性が一段と高まっていると認識しています。その中で、多様な事業と人材、産業知見を基盤とする「総合力」を発揮し、事業環境に応じて戦略を柔軟に見直しながら、最適な事業ポートフォリオを構築して持続的な成長と企業価値向上につなげる方針へと整理されました。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
定量目標も変化しています。経営戦略2027では、成長性を測る中核指標として営業収益CFの平均成長率10%以上、資本効率の指標として2027年度ROE12%以上を掲げました。また、「Net Debt Equity Ratio:0.6倍」を上限目処とし、財務健全性を維持しながら戦略的にレバレッジを活用する考え方を示しています。(Net Debt Equity Ratio:ネット有利子負債と資本の関係を示す指標)中期経営戦略2024の当期純利益とROEを中心とした目標から、キャッシュ創出力と資本効率を組み合わせた目標へと重点が移っています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
2026年3月期の有価証券報告書では、さらに地球環境エネルギーグループと電力ソリューショングループを統合し、翌年度から「エネルギー&パワーソリューショングループ」を設ける方針が示されています。会社は、エネルギー関連の商材・機能を一元化し、地域ごとに柔軟なバリューチェーンを構築することで、エネルギートランジション期の多様なニーズに対応することを目的と説明しています。(有報 2026年3月期)
5年間を通すと、「総合力」を活用して社会・産業の変化に対応するという考え方は継続しています。一方、その具体化は、MCSV、EX・DX、循環型成長モデルを軸とした中期経営戦略2024から、事業ポートフォリオの最適化、営業収益CFの成長、資本効率をより明示した経営戦略2027へと変化しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
サステナビリティに関する考え方及び取組
サステナビリティについては、独立した開示項目が設けられる以前から経営戦略に組み込まれていました。2022年3月期には、事業活動を通じて取り組む重要な社会課題を「マテリアリティ」として再定義し、各事業を気候変動の移行リスク・機会に応じて分類してモニタリングするなど、事業の低・脱炭素化を進める方針を示しています。また、2021年10月に策定したカーボンニュートラル社会へのロードマップとして、GHG排出量を2030年度に2020年度比で半減、2050年にネットゼロとする目標、2030年度までに2兆円規模のEX関連投資を掲げました。(有報 2022年3月期)
2023年3月期以降は、「マテリアリティ」を事業活動を通じて解決する重要な社会課題と位置付け、共創価値の創出を通じて社会とともに成長するという考え方が継続して開示されています。サステナビリティ関連のリスクと機会については、サステナビリティ部が方針・施策を企画し、委員会での討議を経て、社長室会や取締役会に付議・報告する体制が示されています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)
5年間では、脱炭素や社会課題への対応を経営とは別の活動として扱うのではなく、事業戦略、投資判断、リスク管理の中に組み込む形が継続しています。経営戦略2027でも、地域ごとの脱炭素の進展度合いやエネルギー安全保障などを踏まえ、事業環境に応じて戦略を見直す考え方が示されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
※「サステナビリティに関する考え方及び取組」は、2023年1月の開示制度改正により有価証券報告書に記載欄が新設されました。
事業等のリスク
幅広い事業領域に共通するリスク
三菱商事は、多数の国・地域と産業分野で事業を行っていることから、世界マクロ経済環境、市場、信用、カントリー、事業投資、コンプライアンス、危機事象による事業中断、気候変動などを主要なリスクとして管理しています。営業グループと各リスクを担当するコーポレート専門部局が連携する管理体制も5年間を通じて基本的に維持されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
商品市況の変動は、資源・エネルギー事業を持つ三菱商事にとって継続的なリスクです。加えて、為替、金利、株価などの市場変動、取引先の信用、進出国の政治・経済情勢、投資先の収益悪化などが、個別事業だけでなく連結業績にも影響し得るものとして認識されています。事業投資については、新規投資時に投資目的とリスク、期待収益率などを確認し、投資後も定期的な事業計画によって管理しながら、収益が計画に達しない案件については持分売却や清算を含めた保有方針を検討する仕組みが示されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
地政学・経済環境リスクの変化
世界マクロ経済環境に関する記述は、この5年間の外部環境の変化を反映しています。2022年3月期には、新型コロナウイルス感染症からの経済回復とともに、ロシア・ウクライナ情勢、米中対立、資源・エネルギー価格の高止まりなどが下振れリスクとして挙げられていました。(有報 2022年3月期)
その後もロシア・ウクライナ情勢や米中対立は継続して主要な不確実要因とされ、インフレや金利の動向、中東情勢などが加わりました。2025年3月期には米国の関税政策が各国経済に及ぼす影響も明示され、2026年3月期には米国の通商政策・金融政策、中国景気の弱含みなども含めて、世界経済を取り巻く不確実性が高いとの認識が示されています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
したがって、リスクの基本的な枠組みそのものが大きく入れ替わったというより、地政学、資源・エネルギー、市場、投資といった従来からの主要リスクの中で、具体的に警戒する地域・政策・経済要因が変化してきた5年間と整理できます。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
気候変動リスク
気候変動については、政策・法規制、技術、市場の変化などによる移行リスクと、洪水や渇水などによる物理的リスクの双方を認識しています。一方で、再生可能エネルギー、電気自動車、新たなエネルギー関連技術などの普及は、新規事業機会にもなり得るものとして扱われています。重要な気候変動関連リスクを特定し、影響の大きい事業ではシナリオ分析を行い、その結果を事業戦略へ反映する枠組みも示されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
経営者による業績説明を見ると、この5年間は商品市況や事業ポートフォリオの変化が業績に大きく影響しています。
2022年3月期は、新型コロナウイルス禍からの経済正常化と市況好転を背景に、価格上昇と取引数量増加によって収益が増加しました。売上総利益についても、豪州原料炭や鮭鱒養殖の市況好転、自動車関連事業の生産・販売台数増加、鉄鋼製品の販売価格上昇などを主な要因として説明しています。(有報 2022年3月期)
2023年3月期も、資源価格の高止まりや円安などの環境下で、市況上昇と取引数量の増加により収益が増加しました。売上総利益については、豪州原料炭事業の市況上昇や欧州総合エネルギー事業における市況変化への対応などが増益要因として挙げられています。(有報 2023年3月期)
2024年3月期は状況が変わり、収益は市況下落によって減少し、売上総利益も豪州原料炭事業の市況下落を主因として減少しました。一方、有価証券損益では海外発電事業の売却益・評価益、固定資産損益では不動産・有形固定資産の売却益があり、鮭鱒養殖事業では関連損失も計上されています。経営者の説明からは、市況要因と資産売却・評価、一部事業の損失が並行して業績に影響していたことが確認できます。(有報 2024年3月期)
2025年3月期には、取引数量の減少に加え、ローソンが連結子会社から持分法適用会社となったことが収益や売上総利益の減少要因として説明されています。このため、前年差には事業そのものの増減だけでなく、連結上の扱いの変更が含まれています。(有報 2025年3月期)
2026年3月期は、収益についてローソンの持分法適用会社化による減少要因が残る一方、市況上昇による増加があり、前年度を上回りました。一方、売上総利益はローソンの持分法適用会社化などにより減少し、有価証券損益も前年度に計上したローソン持分法適用会社化に伴う再評価益の反動によって大きく減少したと説明されています。(有報 2026年3月期)
この5年間の経営者説明では、商品市況の変動だけでなく、事業売却、持分変更、資産の評価・売却などによる影響も大きく、単純な収益・利益の増減だけでは事業実態を比較しにくい年度が含まれています。実際の財務数値と各項目への影響は「経理の状況」で改めて整理します。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
重要な契約等
2022年3月期から2025年3月期まで、「経営上の重要な契約等」または「重要な契約等」については、いずれも「特に記載すべき事項はありません」とされています。(有報 2022年3月期〜2025年3月期)
これに対し、2026年3月期には大きな動きがありました。三菱商事は2026年1月、米国テキサス州・ルイジアナ州でシェールガスの開発・生産・販売などを行うAethon III LLC、Aethon United LPなどの全持分を取得する株式譲渡契約を締結しました。取得価額は52億米ドルで、関係当局の承認など所定の前提条件が満たされた場合、Aethonは完全子会社となる予定です。(有報 2026年3月期)
Aethonのシェールガス権益は主にヘインズビル地域にあり、契約時点で約2.1Bcf/日、LNG換算で年間約1,500万トンの持分生産量を有するとされています。会社は、この取得によって天然ガス・LNG事業の収益基盤を強化するとともに、米国で展開する電力、データセンター、化学品などの事業も念頭に、上流ガスを起点としたバリューチェーン構築の検討を進めると説明しています。(有報 2026年3月期)
5年間では、重要な契約に関する記載がなかった状態から、最終年度に米国シェールガス事業の大型取得契約が加わったことが大きな変化となっています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
研究開発活動
研究開発活動については、2022年3月期から2026年3月期まで、各年度とも「特に記載すべき事項はありません」とされています。この5年間について、有価証券報告書の「研究開発活動」から取り上げるべき継続的な研究開発費や研究テーマの変化は確認されません。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
経理の状況
三菱商事はIFRSに準拠して連結財務諸表を作成しています。以下では、連結財政状態計算書、連結損益計算書、連結キャッシュ・フロー計算書を中心に、5年間の大きな変化を確認します。
連結財政状態計算書
2022年3月期から2024年3月期にかけて、総資産は21兆9,120億円から23兆4,596億円へ増加し、当社の所有者に帰属する持分も6兆8,802億円から9兆439億円へ増加しました。当社所有者帰属持分比率は31.4%から38.6%へ上昇しています。(有報 2022年3月期〜2024年3月期)
2024年3月期末にはローソンの保有資産・負債を売却目的保有へ振り替えたことが財政状態計算書に表れています。流動資産は前期末から2兆5,672億円増加する一方、非流動資産は1兆2,551億円減少しており、会社はローソン保有非流動資産の売却目的保有資産への振替を主な要因として説明しています。(有報 2024年3月期)
2025年3月期にはローソンが連結子会社から持分法適用会社となったことにより、総資産は前期末から1兆9,635億円減少して21兆4,961億円となりました。流動資産では売却目的保有資産が減少する一方、非流動資産ではローソンの残存持分が持分法で会計処理される投資として計上されたことや、LNG関連事業で新たに使用権資産を計上したことなどにより増加しています。負債も2兆229億円減少し、当社の所有者に帰属する持分は3,248億円増加したため、当社所有者帰属持分比率は43.6%まで上昇しました。(有報 2025年3月期)
2026年3月期には総資産が前期末から2兆6,556億円増加し、24兆1,517億円となりました。流動資産ではその他の金融資産やその他の流動資産、非流動資産では有形固定資産などが増加しています。一方、負債も2兆5,593億円増加して13兆9,011億円となり、社債及び借入金の増加が流動・非流動負債の双方に表れました。当社の所有者に帰属する持分は9兆4,406億円と前期末からの増加が719億円にとどまったため、当社所有者帰属持分比率は43.6%から39.1%へ低下しています。(有報 2026年3月期)
2026年3月期の資本内訳では、利益剰余金が6兆6,375億円から6兆9,540億円へ増加し、在外営業活動体の換算差額も増加した一方、自己株式は990億円から1兆1,135億円へ大きく増加しています。利益の積み上がりや為替換算差額の増加に対し、大規模な自己株式取得が当社の所有者に帰属する持分の増加を抑える形となっています。(有報 2026年3月期)
連結損益計算書
2022年3月期から2023年3月期にかけては、資源・商品市況の上昇などを背景に収益と売上総利益が大きく増加しました。2023年3月期には収益が21兆5,720億円、売上総利益が2兆5,600億円、当社の所有者に帰属する当期純利益が1兆1,807億円となり、この5年間ではいずれも高い水準となっています。(有報 2022年3月期、2023年3月期)
その後、売上総利益は2024年3月期の2兆3,597億円、2025年3月期の1兆8,364億円、2026年3月期の1兆6,551億円へと低下しています。2024年3月期には豪州原料炭事業の市況下落が減少要因となり、2025年3月期にはローソンの持分法適用会社化や豪州原料炭事業の販売数量減少、2026年3月期にはローソンの持分法適用会社化の影響などが会社から説明されています。(有報 2024年3月期〜2026年3月期)
一方、当社の所有者に帰属する当期純利益は、売上総利益ほど単純には連動していません。2025年3月期は売上総利益が前期比で大きく減少したものの、当期純利益は9,507億円と前期の9,640億円に近い水準を維持しました。この年度には、ローソンの持分法適用会社化に伴う再評価益、豪州原料炭事業の有形固定資産売却益、前年度に計上した千代田化工建設関連引当金の反動・戻入などが損益に含まれています。他方、国内洋上風力発電事業の減損損失等や三菱自動車工業の持分損益減少などが持分法による投資損益の減少要因となりました。(有報 2025年3月期)
2026年3月期には、収益は18兆9,160億円と前期を上回りましたが、当社の所有者に帰属する当期純利益は8,005億円へ減少しました。有価証券損益は前期の3,056億円から418億円へ減少しており、前年度に計上したローソンの持分法適用会社化に伴う再評価益の反動が主な要因です。固定資産除・売却損益も前期の1,346億円の利益から93億円の損失となり、前年度の豪州原料炭事業における有形固定資産売却益の反動が表れています。一方、持分法による投資損益は3,375億円から4,679億円へ増加し、銅事業における過年度の減損損失の一部戻入などが増加要因となりました。(有報 2026年3月期)
このため、5年間の利益推移には、資源市況や各事業の収益動向だけでなく、持分変更に伴う再評価益、資産売却益、減損損失・戻入なども影響しています。特に2025年3月期と2026年3月期の前年差には、ローソンの持分法適用会社化に伴う一過性の損益とその反動が含まれており、単純な当期純利益の増減だけでは事業収益の変化を表し切れない構造となっています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
連結キャッシュ・フロー計算書
営業活動によるキャッシュ・フローは5年間を通して1兆円を上回る資金流入となっています。2023年3月期には1兆9,301億円まで増加し、その後も2024年3月期1兆3,474億円、2025年3月期1兆6,583億円、2026年3月期1兆4,900億円と高い水準の営業キャッシュ・フローが続いています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
投資活動によるキャッシュ・フローは5年間を通じて資金支出となっています。2025年3月期には設備投資やその他の投資取得に加え、ローソンの持分法適用会社化に伴う現預金の減少がある一方、原料炭事業の一部炭鉱売却や融資回収などによる資金流入もあり、差引2,739億円の支出となりました。(有報 2025年3月期)
2026年3月期の投資活動によるキャッシュ・フローは4,486億円の支出となり、5年間で最も大きい資金流出となっています。有形固定資産等の取得3,529億円、持分法で会計処理される投資の取得2,928億円、その他の投資の取得2,261億円などの支出がある一方、資産売却や投資回収による収入も計上されています。(有報 2026年3月期)
財務活動によるキャッシュ・フローも5年間を通じて資金支出となっています。2026年3月期には長期借入債務等による調達が1兆3,868億円あった一方、自己株式の増減-純額による支出が1兆27億円、当社による配当金の支払いが4,060億円となりました。この結果、財務活動によるキャッシュ・フローは8,047億円の資金流出となっています。(有報 2026年3月期)
2026年3月期には、長期借入債務等による調達、投資活動による資金支出、自己株式の増減-純額による支出、配当金の支払いが同じ年度に生じています。財政状態計算書では社債及び借入金を含む負債が増加し、自己株式も増加しており、当社所有者帰属持分比率は前期の43.6%から39.1%へ低下しました。(有報 2026年3月期)
財務諸表注記から見える大きな変化
5年間で財務諸表の比較条件に最も大きく影響したものの一つが、ローソンの連結上の扱いの変更です。2024年3月期末にはローソンの資産・負債を売却目的保有へ振り替え、2025年3月期には連結子会社から持分法適用会社へ移行しました。これにより、総資産・負債、収益、売上総利益、販売費及び一般管理費などの比較範囲が変化するとともに、残存持分の公正価値評価に伴う再評価益も損益へ計上されています。(有報 2024年3月期、2025年3月期)
また、2025年3月期にはLNG関連事業で新たなリースが開始され、使用権資産とリース負債が増加しました。2026年3月期には有形固定資産が2兆8,730億円から3兆4,992億円へ増加し、借入金を含む負債も大きく増加しています。5年間の後半では、事業ポートフォリオの変更による連結範囲の変化と、新たな投資・資金調達が財政状態に同時に表れています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
配当政策
累進配当を軸とする株主還元
三菱商事の株主還元では、この5年間を通じて累進配当が継続しています。2022年3月期の「中期経営戦略2021」では、持続的な利益成長に合わせて増配していく累進配当を継続する方針が示され、2021年度の1株当たり年間配当金は150円となりました。(有報 2022年3月期)
2022年度から2024年度を対象とする「中期経営戦略2024」でも、持続的な利益成長に応じて増配を行う累進配当が基本とされました。これに加えて、財務規律の下で機動的に自己株式取得を実施する方針が示され、総還元性向は30~40%を目処とし、2023年度と2024年度については40%程度を目処とする考え方が示されました。会社は、財務健全性、配当の安定成長、株主還元に対する市場期待の3つのバランスがとれた還元政策を実施するとしています。(有報 2023年3月期、2024年3月期)
2025年度から2027年度を対象とする「経営戦略2027」でも、累進配当を維持するとともに、機動的に自己株式取得を行う基本方針が継続されています。一方、中期経営戦略2024で示されていた総還元性向30~40%という数値目標は、経営戦略2027の有価証券報告書上の株主還元方針には掲げられていません。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
経営戦略2027では、財務健全性について「Net Debt Equity Ratio:0.6倍」を上限目処とし、財務健全性を維持しながら戦略的にレバレッジを活用する方針が示されています。また、2027年度までの投資計画を掲げたうえで、キャッシュ・フローの状況により追加配分枠が生じた場合には、投資案件の状況などを踏まえて、投資または追加還元への配分を検討するとしています。(有報 2026年3月期)
1株当たり配当額の推移
最新の有価証券報告書に掲載されている、2024年1月1日付の普通株式1株につき3株の株式分割を反映した1株当たり年間配当額と配当性向は次のとおりです。
| 決算期 | 1株当たり年間配当額 | 配当性向 |
|---|---|---|
| 2022年3月期 | 50円 | 55.0% |
| 2023年3月期 | 60円 | 20.8% |
| 2024年3月期 | 70円 | 33.9% |
| 2025年3月期 | 100円 | 49.7% |
| 2026年3月期 | 110円 | 53.2% |
(有報 2026年3月期)
※ 2024年1月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施しているため、過年度の1株当たり配当額は、最新の有価証券報告書に掲載された株式分割後の基準にそろえています。
1株当たり年間配当額は、2022年3月期の50円から2026年3月期の110円まで毎期増加しています。特に2025年3月期には前期の70円から100円へ増加し、2026年3月期にはさらに110円となりました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
一方、配当性向は、2022年3月期の55.0%、2023年3月期の20.8%、2024年3月期の33.9%、2025年3月期の49.7%、2026年3月期の53.2%と年度によって変動しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
5年間を並べると、配当性向が一定の水準で推移しているわけではない一方、1株当たり年間配当額は毎期増加しています。各経営戦略で継続して示されてきた累進配当の方針と、実際の配当額の推移が対応する形となっています。
自己株式取得を含む株主還元
中期経営戦略2024では、累進配当に加えて、財務規律の下で機動的に自己株式取得を実施する方針が示されました。経営戦略2027でも、累進配当を維持するとともに、機動的に自己株式取得を行う基本方針が継続されています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)
2026年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書では、自己株式の増減-純額による支出が1兆27億円、当社による配当金の支払いが4,060億円となっています。(有報 2026年3月期)
同年度には、長期借入債務等による調達が1兆3,868億円となる一方、有形固定資産等や持分法で会計処理される投資の取得などによる投資支出も行われています。(有報 2026年3月期)
経営戦略2027では、累進配当と機動的な自己株式取得を基本方針として維持しながら、財務健全性を確保し、投資機会やキャッシュ・フローの状況に応じて投資または追加還元への資金配分を検討する考え方が示されています。(有報 2026年3月期)
5年間を通すと、累進配当という基本方針は継続しており、1株当たり年間配当額も50円から110円へ増加しました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
還元方針の具体的な示し方を見ると、中期経営戦略2024では総還元性向30~40%という数値目標が示されていたのに対し、経営戦略2027では累進配当と機動的な自己株式取得を基本方針として維持し、投資と追加還元への資金配分をキャッシュ・フローの状況に応じて検討する形となっています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)
主要な経営指標等の推移
以下は、2026年3月期の有価証券報告書に掲載された連結経営指標等を基準に、主要な数値の5年間の推移をまとめたものです。
収益・利益
| 指標 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 収益 | 17兆2,648億円 | 21兆5,720億円 | 19兆5,676億円 | 18兆6,176億円 | 18兆9,160億円 |
| 売上総利益 | 2兆1,508億円 | 2兆5,600億円 | 2兆3,597億円 | 1兆8,364億円 | 1兆6,551億円 |
| 当期純利益※1 | 9,375億円 | 1兆1,807億円 | 9,640億円 | 9,507億円 | 8,005億円 |
| EPS※2 | 211.69円 | 269.76円 | 230.10円 | 236.97円 | 210.92円 |
※1 当期純利益:当社の所有者に帰属する当期純利益
※2 EPS:基本的1株当たり当期純利益(当社の所有者に帰属)
(有報 2026年3月期)
収益、売上総利益、当期純利益はいずれも2023年3月期に5年間で最も高い水準となりました。その後、収益はおおむね18兆円台から19兆円台で推移する一方、売上総利益と当期純利益は低下しています。なお、2025年3月期にはローソンが連結子会社から持分法適用会社となっており、収益や売上総利益などの比較範囲が変化しています。このため、5年間の数値はすべてが同一の連結範囲による比較ではありません。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
財政状態・資本効率
| 指標 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 総資産 | 21兆9,120億円 | 22兆1,475億円 | 23兆4,596億円 | 21兆4,961億円 | 24兆1,517億円 |
| 当社所有者帰属持分 | 6兆8,802億円 | 8兆656億円 | 9兆439億円 | 9兆3,687億円 | 9兆4,406億円 |
| BPS※1 | 1,553.23円 | 1,881.69円 | 2,206.97円 | 2,355.22円 | 2,578.33円 |
| 当社所有者帰属持分比率 | 31.4% | 36.4% | 38.6% | 43.6% | 39.1% |
| ROE※2 | 15.0% | 15.8% | 11.3% | 10.3% | 8.5% |
※1 BPS:1株当たり当社所有者帰属持分
※2 ROE:当社所有者帰属持分当期純利益率
(有報 2026年3月期)
当社所有者帰属持分とBPSは5年間を通じて増加しました。一方、ROEは2023年3月期の15.8%をピークに低下し、2026年3月期は8.5%となっています。総資産と当社所有者帰属持分比率は一定方向には推移しておらず、2025年3月期のローソンの持分法適用会社化や、2026年3月期の資産・負債の増加などが期間比較に表れています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)
キャッシュ・フロー
| 指標 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 営業CF※1 | 1兆558億円 | 1兆9,301億円 | 1兆3,474億円 | 1兆6,583億円 | 1兆4,900億円 |
| 投資CF※2 | △1,676億円 | △1,775億円 | △2,058億円 | △2,739億円 | △4,486億円 |
| 財務CF※3 | △6,934億円 | △1兆7,666億円 | △1兆862億円 | △1兆5,307億円 | △8,047億円 |
| 現金等期末残高※4 | 1兆5,556億円 | 1兆5,570億円 | 1兆2,516億円 | 1兆5,366億円 | 1兆8,415億円 |
※1 営業CF:営業活動によるキャッシュ・フロー
※2 投資CF:投資活動によるキャッシュ・フロー
※3 財務CF:財務活動によるキャッシュ・フロー
※4 現金等期末残高:現金及び現金同等物の期末残高
(有報 2026年3月期)
営業CFは5年間を通じて毎期1兆円を上回るプラスを維持しました。一方、投資CFと財務CFは毎期マイナスで、投資CFの資金流出額は期間後半に拡大しています。現金等期末残高は2024年3月期に低下した後、2026年3月期には5年間で最も高い水準となっています。(有報 2026年3月期)
※ 2024年1月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施しています。2026年3月期の有価証券報告書では、2021年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して、「1株当たり当社所有者帰属持分」、「基本的1株当たり当期純利益(当社の所有者に帰属)」および「希薄化後1株当たり当期純利益(当社の所有者に帰属)」を算出しています。(有報 2026年3月期)
5年間を通して
三菱商事の5年間では、資源、素材、モビリティ、食品、生活者向け事業、電力・エネルギー、インフラなど幅広い産業分野を持つ事業構成を維持する一方、事業を束ねる組織は変化しました。2022年3月期から2024年3月期までの10グループを基本とする体制から、2025年3月期には8グループへ再編され、2026年3月期の有価証券報告書では、その後の7グループ体制への再編も示されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
経営方針では、「総合力」を活用して社会・産業の変化に対応する考え方が継続しています。その具体化は、MCSV、EX・DX、循環型成長モデルを軸とした「中期経営戦略2024」から、事業ポートフォリオの最適化、営業収益CFの成長、資本効率をより明示した「経営戦略2027」へと変化しました。脱炭素や社会課題への対応についても、事業戦略、投資判断、リスク管理の中に組み込む考え方が5年間を通じて続いています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
業績面では、収益、売上総利益、当期純利益が2023年3月期に5年間で最も高い水準となった後、売上総利益と当期純利益は低下しました。一方、当社所有者帰属持分とBPSは5年間を通じて増加しています。期間後半には、ローソンの持分法適用会社化によって連結範囲が変化し、再評価益や資産売却益、その反動なども損益に表れたため、単純な収益・利益の増減だけでは比較しにくい年度が含まれています。営業CFは毎期1兆円を上回るプラスを維持する一方、投資CFの資金流出額は期間後半に拡大しました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
株主還元では、累進配当という基本方針が5年間を通じて継続し、株式分割後の基準による1株当たり年間配当額は50円から110円まで毎期増加しました。中期経営戦略2024では総還元性向の数値目標を掲げていましたが、経営戦略2027では累進配当と機動的な自己株式取得を維持しながら、財務健全性、投資機会、キャッシュ・フローの状況に応じて資金を配分する考え方が示されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
5年間の後半には、事業ポートフォリオと組織の再編、投資・資金調達、株主還元が並行して進み、2026年3月期には米国シェールガス事業の大型取得契約も加わりました。幅広い事業基盤と「総合力」を活用する基本的な考え方を維持しながら、事業構成、経営目標、資金配分の具体的な形を組み替えてきた5年間と整理できます。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)
出典:三菱商事株式会社 有価証券報告書 2022年3月期〜2026年3月期