4063

信越化学工業

Shin-Etsu Chemical Co.,Ltd.

業種
化学
所属
プライム
会計基準
日本基準
連結・非連結
連結

企業別レビュー

有価証券報告書・5年間レビュー

対象期間:2022年3月期〜2026年3月期

事業の内容

信越化学工業は、塩化ビニル樹脂や半導体シリコン、シリコーンなどの化学製品・電子材料を製造・販売する企業グループです。2022年3月期に報告セグメントの区分を変更し、「生活環境基盤材料事業」「電子材料事業」「機能材料事業」「加工・商事・技術サービス事業」の4事業を報告セグメントとしました。この4事業の構成は2026年3月期まで維持されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

4事業の構成

事業主な製品・事業主な事業会社
生活環境基盤材料事業塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、メタノール、クロロメタン、ポバールシンテックINC.、シンエツPVC B.V.、日本酢ビ・ポバール
電子材料事業半導体シリコン、希土類磁石、半導体用封止材、フォトレジスト、マスクブランクス、合成石英製品信越半導体、三益半導体工業、直江津電子工業、長野電子工業
機能材料事業シリコーン、セルロース誘導体、金属珪素、合成性フェロモン、塩ビ・酢ビ共重合樹脂、液状フッ素エラストマー、ペリクル日信化学工業、シンエツシリコーンズタイランド、SEタイローズ
加工・商事・技術サービス事業樹脂加工製品、技術・プラント輸出、商品の輸出入、エンジニアリング信越ポリマー、信越エンジニアリング、信越アステック

※ 主な事業会社は2026年3月期時点の構成を中心に記載しています。三益半導体工業は2024年11月に完全子会社化されました。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

生活環境基盤材料事業では、国内に加え、米国のシンテックINC.や欧州のシンエツPVC B.V.などが塩化ビニル樹脂の製造・販売を担っています。電子材料事業では、信越半導体を中心に、日本、米国、マレーシア、台湾、欧州などに半導体シリコンの製造・加工拠点を展開しています。希土類磁石や半導体関連材料も同事業に含まれます。

機能材料事業では、日本やタイなどにシリコーンの製造拠点を持つほか、ドイツなどでセルロース誘導体事業を展開しています。加工・商事・技術サービス事業では、信越ポリマーグループによる樹脂加工製品の製造・販売と、エンジニアリング、商事などの事業を担っています。こうした国内外の事業会社を通じた製造・販売体制は、対象期間を通じて維持されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

5年間の主な事業構成の変化

対象期間の初年度である2022年3月期には、報告セグメントの区分変更が行われました。それ以降、2026年3月期まで4事業の名称と主要製品群に大きな変更はなく、新たな報告セグメントの追加や既存セグメントの廃止は確認されません。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

この間の主な関係会社の変化として、半導体シリコンの加工を担う三益半導体工業の完全子会社化があります。

2022年3月期時点で、三益半導体工業は電子材料事業に属する持分法適用関連会社であり、信越化学工業グループの議決権所有割合は43.8%でした。その後、2024年11月に完全子会社化され、2025年3月期には議決権所有割合100.0%の連結子会社となりました。従来からグループの半導体シリコン加工を担っていた会社が完全子会社となったことで、電子材料事業における連結グループの範囲が拡大しました。(有報 2022年3月期、2025年3月期)

また、2026年1月には群馬県伊勢崎市に伊勢崎工場を新設しました。2026年3月期の有価証券報告書では沿革にこの新設が記載されていますが、報告セグメントの区分は従来の4事業から変更されていません。(有報 2026年3月期)

グループ全体の構成会社数は、2022年3月末の子会社132社・関連会社12社から、2026年3月末には子会社134社・関連会社11社となりました。会社数に大幅な変化はなく、4事業を基盤とする事業構成が継続しています。(有報 2022年3月期、2026年3月期)

以上のように、この5年間は、4事業の基本構成と主要製品群が維持される一方、電子材料事業では三益半導体工業の完全子会社化という関係会社の位置付けの変化がありました。事業ポートフォリオの大幅な組み替えよりも、既存事業の構成を維持しながら、半導体シリコン加工事業の連結範囲が拡大した点が特徴となっています。

事業の状況

経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

信越化学工業は、他社が容易に追随できない素材と技術によって社会や産業に価値を提供することを基本方針としています。世界最高水準の技術・品質の追求、生産性の向上、顧客への安定供給を重視し、目標とする経営指標には年次ごとの増収・増益を掲げています。これらの基本的な考え方は2022年3月期から2026年3月期まで一貫しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

2022年3月期には、半導体関連需要の拡大や塩化ビニル樹脂などの好調な市況を背景に最高益を更新しました。会社はこれを新たな起点とし、ユビキタス化やカーボンニュートラルなどの社会的要請に応える製品を通じて持続的な成長を目指すと説明しています。また、需要に確実に応えるため、サプライチェーンを含めた供給体制を点検・拡充し、生産能力の新設・増設に際して立地を見直す方針を示していました。(有報 2022年3月期)

2023年3月期も過去最高益を更新しましたが、同年度後半には塩化ビニル樹脂や半導体関連市場で需要・市況の調整が始まりました。2024年3月期にはその影響が年間を通じて表れ、会社は塩化ビニル樹脂市場における中国メーカーからの輸出圧力や、半導体市場の調整継続に対応しました。外部環境の変動への適応と事業の耐性向上という課題は、好業績期から調整局面にかけて継続して掲げられています。(有報 2023年3月期、2024年3月期)

2025年3月期には、従来の基本方針に加えて、事業分野ごとの重点施策が具体的に示されました。生活環境基盤材料では規模の経済と多層的な事業展開、電子材料では半導体市場に必要な素材・技術の提供と総合電子材料メーカーとしての機能拡充、機能材料では珪素化学を活用した課題解決を推進する方針です。また、中国からの過剰輸出が複数市場で継続するとの認識を示し、多角的な対応策を講じるとしています。(有報 2025年3月期)

2026年3月期には、半導体関連の方針がさらに具体化し、AIの進展を支える先端電子材料の機能拡充と、AIインフラに関する全事業セグメントでの事業機会の追求が明記されました。一方、生活環境基盤材料における規模の経済の追求や、珪素化学による課題解決も継続しています。従来の増収・増益、技術・品質、生産性、安定供給という基本方針を維持しながら、半導体・AI関連市場に向けた事業機会の捉え方が具体化した5年間となっています。(有報 2026年3月期)

サステナビリティに関する考え方及び取組

信越化学工業は、環境負荷を抑えながら社会・産業の発展に貢献することを経営方針に位置付けています。2022年3月期の時点で、自社の温室効果ガス排出削減に加え、脱炭素に役立つ素材・技術の提供に注力する方針を示していました。対象期間を通じて、サステナビリティに関する管理体制の整備や気候変動への対応、人権・人的資本に関する取組を進めています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

管理体制と気候変動への対応

2023年3月期には、部門横断のサステナビリティ委員会とリスクマネジメント委員会による管理体制が説明されています。気候変動に伴うリスクについては、両委員会が連携してシナリオ分析を行い、重要事項を取締役会などへ報告する仕組みを設けています。2024年3月期以降は、気候変動関連分科会や人権デューデリジェンス分科会の活動、サステナビリティに関する事業機会の認識・評価・管理についても説明しています。(有報 2023年3月期〜2025年3月期)

温室効果ガスについては、2050年にスコープ1(事業活動による直接排出)・スコープ2(購入した電力や熱などの使用に伴う間接排出)の排出量を実質ゼロとする目標を掲げています。2023年3月期の有価証券報告書では、従来からの生産量原単位の改善に加え、排出絶対量の削減にも取り組む方針を説明し、2025年度に温室効果ガス排出の生産量原単位を1990年度比45%とする中間目標を示していました。主な対応策には、再生可能エネルギーの利用、燃料転換、二酸化炭素の回収・資源化などが含まれます。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

2026年3月期の有価証券報告書では、2026年5月28日に公表した新たな中間目標も説明されています。これは2026年3月期末後に公表された目標であり、2025年を基準年として、2035年までに温室効果ガス排出量を生産量原単位で30%削減し、2040年までに排出量を35%削減するものです。生産工程の効率改善に加え、電力の脱炭素化、燃料転換、二酸化炭素の回収・資源化を進める考え方が示されています。(有報 2026年3月期)

人的資本・人権への取組

人的資本については、人材の確保・育成、職場環境の整備、多様性への対応などを継続的な課題として位置付けています。また、人権デューデリジェンスや人権啓発に関する体制を設け、サステナビリティ委員会などを通じて対応しています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

※「サステナビリティに関する考え方及び取組」は、2023年1月の開示制度改正により有価証券報告書に記載欄が新設されました。

事業等のリスク

主要なリスクと5年間の変化

信越化学工業が継続して挙げている主要なリスクは、世界各地の経済動向と製品市況、為替変動、自然災害・事故、法規制、原材料調達、技術革新、環境問題、製造物責任などです。これらは化学製品と電子材料を世界各地で製造・販売する事業構造に関係しており、5年間を通じて主要なリスク項目は大きく変わっていません。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

経済動向・製品市況

塩化ビニル樹脂など一部の主要製品は、世界の需給関係によって価格が大きく変動します。2022年3月期には需要や市況の好調さが収益拡大につながりましたが、2023年3月期後半には塩化ビニル樹脂市場の軟化が始まり、2024年3月期には中国メーカーによる輸出圧力などの影響が顕在化しました。2025年3月期から2026年3月期にかけても中国からの過剰輸出への対応が経営課題となり、製品市況の変動は継続的なリスクであると同時に、実際の業績変動にも表れています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

為替変動

海外売上高比率は2022年3月期の77%から、2023年3月期81%、2024年3月期78%、2025年3月期80%、2026年3月期79%と、対象期間を通じて高い水準にあります。在外連結子会社の業績や財政状態を円換算する際の影響に加え、外国通貨建て取引にも為替変動リスクがあります。会社は為替予約などを通じてリスクの軽減を図っていますが、完全に回避できるものではないと説明しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

自然災害・事故・感染症

国内外の生産拠点における災害や事故、サプライチェーンの分断も継続的なリスクです。会社は定期的な防災点検、設備保守、安全対策投資、生産拠点の複数化などに取り組んでいます。

2022年3月期には新型コロナウイルスの影響を独立したリスク項目として記載していました。その後は感染症全般を自然災害・事故災害と併せて扱う構成となり、感染症の拡大や各国の経済活動抑制が需要・供給体制に与える影響を継続して認識しています。この変更はリスクの消滅ではなく、記載上の整理の変化と捉えられます。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

原材料調達・公的規制

化学製品の製造に必要な原材料については、供給の逼迫や遅延、供給国の通商政策変更、調達価格上昇などをリスクとして挙げています。輸出入規制や投資に関する許認可、税制、環境関連法令などの変更も、多国籍に事業を展開する企業として継続的なリスクです。会社は原材料調達先の多様化などによって供給の安定化に努めています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

技術革新・製造物責任

主要な販売先であるエレクトロニクス業界では、半導体の微細化など技術革新の速度が速く、これに対応した先端材料の開発が継続的に求められています。必要な技術開発が市場の変化に追い付かない場合や、競争力のある代替製品が現れた場合には、業績に影響する可能性があります。

また、製品品質の確保に取り組む一方、予期しない品質問題が発生した場合の製造物責任も主要リスクとして継続して認識しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

環境関連リスク

化学物質を扱う事業特性から、環境関連規制の強化や排出抑制への対応も重要なリスクです。規制が予想を超えて厳格化した場合には、新たな設備投資や技術的対応が必要になる可能性があります。温室効果ガスの削減に関する具体的な目標・対応策は、サステナビリティの開示で説明されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

リスク管理体制

会社は、事業の多角化・グローバル化、調達先の多様化、生産拠点の複数化、為替予約などによってリスクの分散・軽減を図っています。加えて、リスクマネジメント委員会が各種リスクの把握と対応を進め、重要な事項を取締役会などに報告する体制を設けています。気候変動関連のリスクについては、サステナビリティ委員会とも連携しています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

2022年3月期〜2023年3月期:需要拡大と過去最高益の更新

2022年3月期は、塩化ビニル樹脂・か性ソーダの需要が堅調に推移し、原材料価格上昇に対応した製品値上げも進みました。半導体関連では世界的な供給不足を背景に、シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクスなどの旺盛な需要に対応し、可能な限りの出荷に取り組みました。この結果、連結売上高は2兆744億円、営業利益は6,763億円となり、前期を大きく上回りました。(有報 2022年3月期)

2023年3月期は、連結売上高が2兆8,088億円、営業利益が9,982億円となり、再び過去最高益を更新しました。ただし、年度内では市場環境に変化が生じています。塩化ビニル樹脂の市況には世界的な景気後退の影響が表れ、軟化した後、2022年末に底打ちしたと会社は説明しています。一方、か性ソーダの市況は塩化ビニル樹脂の市況軟化局面でも底堅さを維持していましたが、2023年に入ってから軟化しました。半導体市場も2022年秋以降に調整局面へ入りましたが、電子材料事業の年度全体の業績は前半の好調さに支えられました。(有報 2023年3月期)

2024年3月期:塩化ビニル樹脂・半導体関連市場の調整

2024年3月期は、連結売上高が2兆4,149億円、営業利益が7,010億円となり、前期からそれぞれ14.0%、29.8%減少しました。

生活環境基盤材料事業では、中国メーカーによる輸出圧力が続く中で、塩化ビニル樹脂の価格水準維持に努めましたが、セグメント営業利益は前期比40.5%減少しました。電子材料事業では、2022年秋に始まった半導体市場の調整が続く一方、底打ちの兆しも見られました。機能材料事業では、中国経済の不振に起因する在庫調整や汎用製品の市況軟化が影響し、特に年度後半に厳しさが増しました。

この年度は、前年度後半に始まった市場調整が複数事業の通期業績に表れた時期と整理できます。(有報 2024年3月期)

2025年3月期:事業ごとに異なる回復

2025年3月期は連結売上高が2兆5,612億円、営業利益が7,421億円となり、前期から増収・増益に転じました。ただし、事業ごとに状況は異なっています。

電子材料事業では、半導体市場の回復が用途・分野によって異なる中、需要の強い市場への材料供給に注力し、セグメント営業利益は前期比19.3%増加しました。機能材料事業でも、汎用製品の市況軟化が続く一方、機能性の高い製品群の販売を拡大し、営業利益は17.7%増加しました。

一方、生活環境基盤材料事業では、塩化ビニル樹脂の主要地域における価格改善・維持に取り組んだものの、セグメント営業利益は前期比9.5%減少しました。連結全体の回復は、すべての事業が同じ方向に改善した結果ではなく、電子材料事業などの増益が支えたものです。(有報 2025年3月期)

2026年3月期:AI関連需要の拡大と塩化ビニル樹脂市況の低迷

2026年3月期は、連結売上高が2兆5,740億円と前期比0.5%増加した一方、営業利益は6,352億円と14.4%減少しました。

電子材料事業では、AI関連市場が引き続き活況であり、それ以外の半導体分野でも需要が上向き始めたと会社は説明しています。シリコンウエハー、フォトレジスト、マスクブランクスなどの販売を伸ばし、同事業の営業利益は前期比6.1%増加して3,445億円となりました。

これに対し、生活環境基盤材料事業では、北米の塩化ビニル樹脂需要が年度途中から弱含み、アジアなどの海外市場でも価格低迷が続きました。か性ソーダは比較的安定した販売を確保したものの、セグメント営業利益は前期比43.4%減少して1,649億円となりました。会社は、中東情勢に起因する原材料・エネルギー価格上昇への対応として、製品値上げを進めたと説明しています。

機能材料事業は、機能性の高い製品群の販売拡大に注力し、売上高が減少する一方で営業利益は微増となりました。

2023年3月期の最高益から2024年3月期の調整、2025年3月期の部分的な回復を経て、2026年3月期には電子材料と生活環境基盤材料の業績の方向性が大きく分かれています。半導体・AI関連市場の拡大が電子材料事業を支える一方、塩化ビニル樹脂の市況低迷が連結全体の減益要因となりました。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

重要な契約等

対象期間を通じて、希土類磁石の製造・使用・販売に関する特許の相互実施許諾契約が、重要な技術提携契約として記載されています。契約相手は日立金属株式会社(現・株式会社プロテリアル)で、希土類磁石に関する特許の実施権を相互に許諾する内容です。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

研究開発活動

信越化学工業は、既存事業では技術・品質・コスト面の競争力強化、新規事業では独自技術の追求と早期事業化を研究開発の基本方針としています。この方針は対象期間を通じて維持されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

研究開発費は次のように推移しました。

決算期研究開発費
2022年3月期624億55百万円
2023年3月期672億1百万円
2024年3月期657億85百万円
2025年3月期731億29百万円
2026年3月期778億19百万円

2022年3月期の624億55百万円から2026年3月期には778億19百万円へ増加しました。2024年3月期には一時的に減少しましたが、その後2期連続で増加しています。研究開発には複数の事業部門にまたがるものや、既存事業に直接関連しないものも含まれるため、会社はセグメント別の研究開発費を開示していません。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

重点研究開発分野の変化

2022年3月期には、エネルギー、半導体関連材料、光・通信、ヘルスケア、SDGs・カーボンニュートラルに貢献する素材・材料などを新規分野の重点として挙げていました。2026年3月期には、半導体関連材料、高速通信、ヘルスケア、SDGs・カーボンニュートラル関連素材を重点分野として説明しており、先端電子材料と持続可能性に関連する研究開発が継続しています。(有報 2022年3月期、2026年3月期)

電子材料事業では、シリコンウエハーの高品質化や半導体デバイスの微細化に対応する材料開発を進めています。2022年3月期には、EUV用フォトレジストや多層材料について、5nm世代の量産移行と一層の微細化に向けた性能改善を説明していました。

2026年3月期には、EUV用フォトレジストなどで2nm世代が量産へ移行し、1.4nmより微細な世代に対応するEUV用プロセス材料の開発を強化していると説明しています。半導体製造プロセスの微細化に対応した研究開発が、5年間でより先端の世代へ進んだことが確認できます。(有報 2022年3月期、2026年3月期)

また、薄膜SOIウエハーやFZウエハー、化合物半導体、希土類磁石、電子産業用有機材料、合成石英製品などの研究開発を継続しています。生活環境基盤材料事業では塩化ビニル樹脂、機能材料事業ではシリコーンやセルロース誘導体、加工・商事・技術サービス事業では樹脂加工技術の研究開発を進めています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

経理の状況

信越化学工業の連結財務諸表は日本基準で作成されています。2022年3月期から2026年3月期にかけて総資産は拡大しましたが、営業利益は2023年3月期をピークとして、市場環境の変化に応じて増減しました。

また、この5年間には設備投資の拡大、三益半導体工業の連結子会社化、自己株式の取得、借入金の増加など、財政状態とキャッシュ・フローに影響する複数の変化がありました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

連結貸借対照表

資産規模の拡大と設備投資

総資産は対象期間を通じて毎期増加し、2022年3月末の4兆534億円から2026年3月末には5兆6,619億円となりました。5年間の増加額は約1兆6,085億円で、設備投資による有形固定資産の拡大などが資産増加の要因となっています。

有形固定資産は2022年3月末の1兆2,902億円から2026年3月末には2兆1,533億円へ増加し、資産拡大の大きな要素となっています。

特に建設仮勘定は、2022年3月末の1,402億円から、2023年3月末には2,242億円、2024年3月末には4,550億円へ増加しています。その後も2025年3月末に4,511億円、2026年3月末には5,148億円となっており、設備投資に伴う未完成設備の残高が初年度を大きく上回っています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

2025年3月期には、有形固定資産が前期末の1兆7,466億円から2兆659億円へ増加したほか、無形固定資産も102億円から369億円へ増加しました。同年度には三益半導体工業が連結子会社となっており、同社の資産・負債が連結財務諸表に含まれるようになりました。既存事業の設備投資などに加え、三益半導体工業の連結子会社化も資産規模の拡大に寄与しています。(有報 2025年3月期)

2026年3月期には、総資産の増加幅は253億円にとどまった一方、有形固定資産は873億円増加しました。半導体シリコンウエハーや半導体露光材料の製造設備、塩化ビニル樹脂原料製造設備などへの投資が進み、建設仮勘定が637億円、建物及び構築物が551億円増加しています。一方、流動資産は現金及び預金や有価証券の減少を主因として1,036億円減少しており、固定資産の増加が流動資産の減少によって相殺され、総資産は小幅な増加となりました。(有報 2026年3月期)

負債・純資産の変化

負債合計は2022年3月末の6,242億円から2025年3月末には7,990億円へ緩やかに増加した後、2026年3月末には1兆186億円となりました。

2026年3月期には、長期借入金が前期末の75億円から2,364億円へ増加しました。同年度には長期借入れによって約2,300億円を調達しており、それまでの豊富な自己資本を中心とする財務構成に、借入金による資金調達の拡大という変化が加わっています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

純資産は2022年3月末の3兆4,292億円から2025年3月末には4兆8,376億円まで増加しましたが、2026年3月末には4兆6,433億円へ減少しました。

2026年3月期は親会社株主帰属純利益4,745億円を計上して利益剰余金が増加する一方、自己株式の帳簿価額が前期末の1,210億円から6,127億円へ増加しています。自己株式の増加が純資産を押し下げる要因となりました。(有報 2026年3月期)

5年間を通じて純資産の水準は初年度を上回っていますが、最終年度には大規模な自己株式取得と借入金増加により、財務構成に変化が表れています。

連結損益計算書

2022年3月期〜2023年3月期:営業利益の大幅拡大

2022年3月期は、売上高が2兆744億円、営業利益が6,763億円、親会社株主帰属純利益が5,001億円となりました。前期に比べて塩化ビニル樹脂や半導体関連製品の販売が伸び、売上高・営業利益ともに大幅に増加しました。(有報 2022年3月期)

2023年3月期には売上高が2兆8,088億円、営業利益が9,982億円、親会社株主帰属純利益が7,082億円となり、いずれも対象期間中の最高水準となりました。営業利益率も約35.5%に達しています。

2023年3月期の年度後半には塩化ビニル樹脂や半導体市場で調整が始まっていましたが、年度全体では前半の好調な事業環境が業績を支えました。(有報 2023年3月期)

2024年3月期:市場調整と事業再構築費用

2024年3月期は売上高が2兆4,149億円、営業利益が7,010億円となり、前期からそれぞれ14.0%、29.8%減少しました。親会社株主帰属純利益も5,201億円へ減少しています。

営業利益の減少には、塩化ビニル樹脂の市況悪化、半導体市場の調整、機能材料分野の需要・市況の軟化などが反映されています。(有報 2024年3月期)

また、同年度には電子材料事業の合成石英製品のうち、光ファイバー用プリフォーム事業の一部を対象として、事業再構築費用151億57百万円を特別損失に計上しました。2024年3月期は主要事業の市況悪化によって営業利益が減少したことに加え、事業再構築に伴う特別損失も発生し、税引前利益を押し下げる要因となりました。(有報 2024年3月期)

2025年3月期:営業利益の回復と三益半導体工業の連結子会社化

2025年3月期は売上高が2兆5,612億円、営業利益が7,421億円となり、前期から増収・営業増益に転じました。親会社株主帰属純利益は5,340億円でした。

電子材料事業や機能材料事業の営業利益の増加が、生活環境基盤材料事業の減益を補う構成となっています。(有報 2025年3月期)

同年度には、三益半導体工業の株式を追加取得し、従来の持分法適用関連会社から連結子会社へ変更しました。この企業結合に伴って段階取得差益が発生しています。段階取得差益は、既に保有していた持分を含む企業結合の会計処理に伴って発生したもので、通常の製品販売による営業利益とは異なります。(有報 2025年3月期)

2025年3月期は、三益半導体工業の完全子会社化に伴う段階取得差益54億21百万円や投資有価証券売却益110億3百万円を特別利益に計上した一方、機能材料事業のセルロース誘導体事業の一部を対象とした事業再構築費用78億43百万円や減損損失28億96百万円を特別損失に計上しました。

特別利益合計164億25百万円から特別損失合計107億39百万円を差し引くと、特別損益は56億86百万円のプラスとなり、税引前利益を押し上げています。電子材料事業や機能材料事業を中心とする営業利益の回復に加え、特別損益も税引前利益の増加に寄与した年度でした。(有報 2025年3月期)

2026年3月期:営業利益の減少と特別損益

2026年3月期は売上高が2兆5,740億円となり、前期から0.5%増加しましたが、営業利益は6,352億円と14.4%減少しました。親会社株主帰属純利益は4,745億円となっています。

売上高がほぼ横ばいで推移する一方、売上原価は前期の1兆5,771億円から1兆6,932億円へ増加し、売上総利益は9,841億円から8,808億円へ減少しました。営業利益率も2025年3月期の約29.0%から2026年3月期には約24.7%へ低下しています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

電子材料事業が増益となる一方、生活環境基盤材料事業では塩化ビニル樹脂の市況低迷などにより大幅な減益となりました。こうした事業別の変動が、営業利益の減少に表れています。(有報 2026年3月期)

特別利益には投資有価証券売却益105億72百万円、特別損失には事業再構築費用103億65百万円を計上しました。前年度に計上された段階取得に係る差益54億21百万円は、2026年3月期には発生していません。(有報 2026年3月期)

2023年3月期の最高益から2024年3月期に減益となり、2025年3月期には部分的に回復したものの、2026年3月期には再び営業利益が減少しています。こうした営業利益の変動の中心にあるのは、塩化ビニル樹脂や半導体関連製品などの需要・市況の変化です。一方、各年度の特別損益には事業再構築費用や企業結合に伴う差益などが含まれており、営業利益の増減とは別に税引前利益にも影響しています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

連結キャッシュ・フロー計算書

営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、2022年3月期の5,535億円から2023年3月期には7,880億円へ増加しました。

その後、2024年3月期には7,552億円、2025年3月期には8,819億円となり、2026年3月期には7,127億円へ減少しました。対象期間を通じて毎期プラスを維持しており、2025年3月期が5年間で最も高い水準となっています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

2026年3月期の営業キャッシュ・フローは、前期の8,819億円から7,127億円へ減少しました。同年度は税引前利益が前期の8,262億円から7,085億円へ減少したほか、法人税等の支払額が1,870億円から2,089億円へ増加しています。税引前利益の減少と税金支払いの増加が、営業キャッシュ・フローを押し下げる要因となりました。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動によるキャッシュ・フローは、5年間を通じてマイナスとなっています。ただし、その金額は設備投資だけでなく、定期預金の預入・払戻しや有価証券の売買、企業買収などによって大きく変動しています。

2022年3月期はマイナス2,537億円、2023年3月期はマイナス1,865億円でしたが、2024年3月期にはマイナス1兆992億円へ大幅に拡大しました。

2024年3月期の主な要因は、定期預金の純増額7,813億円と、有形固定資産の取得による支出3,744億円です。設備投資による資金支出に加え、多額の資金が定期預金へ移されたことが、投資キャッシュ・フローのマイナス幅を大きく拡大させています。(有報 2024年3月期)

2025年3月期の投資活動によるキャッシュ・フローは、前期のマイナス1兆992億円からマイナス1,426億円へ、マイナス幅が大幅に縮小しました。同年度も有形固定資産の取得に4,395億円を支出しましたが、定期預金の預入額を払戻額が3,288億円上回り、資金の流入が生じています。前期は定期預金の積み増しが大幅な資金流出を生んでいたのに対し、2025年3月期はその一部が払い戻されたことで、設備投資による支出が続く中でも投資キャッシュ・フローのマイナス幅が縮小しました。(有報 2024年3月期、2025年3月期)

また、2025年3月期には連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出472億32百万円が計上されています。これは三益半導体工業の連結子会社化が実際の資金移動として表れた項目です。

一方、同社の完全子会社化に伴って計上された段階取得に係る差益54億21百万円は特別利益であり、子会社株式取得による支出とは性質が異なります。三益半導体工業の連結子会社化は、損益計算書では段階取得差益として税引前利益を押し上げる一方、キャッシュ・フロー計算書では投資活動による資金支出として表れています。(有報 2025年3月期)

2026年3月期は、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナス5,448億円となりました。有形固定資産の取得による支出3,536億円に加え、定期預金の純増額1,880億円などが資金減少の要因となっています。(有報 2026年3月期)

財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動によるキャッシュ・フローは、2022年3月期のマイナス1,225億円から、2023年3月期にはマイナス4,236億円、2024年3月期にはマイナス3,695億円、2025年3月期にはマイナス4,549億円となりました。

2023年3月期には自己株式の取得による支出2,068億円、2024年3月期には1,077億円、2025年3月期には1,940億円を計上しています。また、各年度とも配当金の支払いが主要な資金支出となっています。(有報 2023年3月期〜2025年3月期)

2026年3月期は財務活動によるキャッシュ・フローがマイナス5,048億円となりました。この年度は、自己株式の取得による支出約5,000億円が発生した一方、長期借入れによる収入約2,300億円がありました。

自己株式取得に伴う多額の資金支出と、長期借入れによる資金調達が同一年度に発生した点が特徴です。借入れの増加は連結貸借対照表にも表れており、2026年3月末の長期借入金残高は前期末から大きく増加しています。(有報 2026年3月期)

現金及び現金同等物の推移

現金及び現金同等物の期末残高は、2022年3月末の1兆89億円から2023年3月末には1兆2,473億円へ増加しましたが、2024年3月末には5,901億円へ減少しました。

2024年3月期の大幅な減少には、前述の定期預金の純増が影響しています。連結貸借対照表上の「現金及び預金」と、キャッシュ・フロー計算書上の「現金及び現金同等物」は範囲が異なります。定期預金への資金移動によって現金及び現金同等物が減少しても、その全額がグループ外への支出になったわけではありません。(有報 2023年3月期、2024年3月期)

2025年3月末には現金及び現金同等物が8,827億円まで増加しましたが、2026年3月末には5,621億円へ減少しました。

2026年3月期は営業活動によって7,127億円のキャッシュ・フローを計上した一方、投資活動では5,448億円、財務活動では5,048億円の資金流出が生じました。為替換算差額などを含め、現金及び現金同等物の期末残高は前期末から3,206億円減少しています。最終年度は、営業キャッシュ・フローがプラスを維持する一方、設備投資、定期預金の積み増し、自己株式取得などによって現金及び現金同等物が減少した年度でした。(有報 2026年3月期)

財務諸表注記

三益半導体工業の連結子会社化

2025年3月期の連結財務諸表注記では、持分法適用関連会社であった三益半導体工業を、株式の追加取得によって連結の範囲に含めたことが明記されています。同社は持分法適用の範囲から除外され、連結子会社として扱われるようになりました。

これにより、同社の資産・負債が連結貸借対照表に含まれるようになり、既存事業の設備投資などとともに、2025年3月期の資産規模の拡大に寄与しています。企業結合に伴う段階取得差益と株式取得による資金支出は、それぞれ連結損益計算書と連結キャッシュ・フロー計算書に計上されています。(有報 2025年3月期)

事業再構築費用

2024年3月期には、電子材料事業の合成石英製品のうち光ファイバー用プリフォーム事業の一部について、事業再構築費用151億57百万円を計上しました。

2025年3月期には、機能材料事業のセルロース誘導体事業の一部について、事業再構築費用78億43百万円を計上しました。

さらに2026年3月期にも事業再構築費用103億65百万円を計上しています。(有報 2024年3月期〜2026年3月期)

これらの事業再構築費用は特別損失として計上され、各年度の税引前利益を押し下げる要因となりました。2024年3月期と2025年3月期では対象事業が異なっており、主要製品の市況変化による営業利益の増減に加えて、複数の事業で再構築に伴う費用が発生したことが確認できます。

配当政策

株主還元の基本方針

信越化学工業は、事業収益の拡大と強固な財務基盤の維持を重視し、経営努力の成果を株主に適正かつ安定的に還元することを基本方針としています。内部留保については、競争力の強化や将来の事業展開に活用するとともに、経済環境の変動に対応できる財務基盤を維持する考えを示しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

株主還元方針では、対象期間中に配当性向の目安が引き上げられました。

2022年3月期と2023年3月期には、35%前後の配当性向を中長期的な目安とし、安定的な配当を実施する方針を示していました。2024年3月期には、過去10年間の配当性向が通算で31%だったことを説明したうえで、中長期的に配当性向40%を目指す方針を示しています。

2025年3月期には40%前後の配当性向を中長期的な目安とする方針が明記され、2026年3月期も維持されています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

また、2024年3月期以降の配当政策では、自己資本利益率(ROE)や資本コストへの配慮が明示されています。2025年3月期には株主還元を資本政策の中核と位置付け、自己株式取得については株価水準などを踏まえて機動的に実施する方針を説明しました。2026年3月期には総還元性向も考慮することが明記されています。(有報 2024年3月期〜2026年3月期)

この5年間で、事業投資と財務基盤の維持を重視する基本姿勢は継続しながら、配当性向の目安の引き上げと自己株式取得を通じて、株主還元を資本政策の中でより明確に位置付けるようになっています。

配当実績の推移

信越化学工業は、中間配当と期末配当の年2回を基本としています。中間配当は取締役会、期末配当は株主総会が決定します。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

対象期間中の1株当たり配当額は次のとおりです。

決算期年間配当額株式分割調整後前期比
2022年3月期400円80円増配
2023年3月期500円100円増配
2024年3月期100円100円据え置き
2025年3月期106円106円増配
2026年3月期106円106円据え置き

※2023年4月1日に普通株式1株を5株とする株式分割を実施しています。2022年3月期と2023年3月期の株式分割調整後配当額は、実際の年間配当額を5で除した比較用の金額です。2024年3月期以降の年間配当額は分割後の株式を基準としています。また、2026年3月期の期末配当53円は、有価証券報告書提出時点では株主総会での決議予定額です。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

2022年3月期は、中間配当150円、期末配当250円の合計400円となり、7期連続の増配でした。2023年3月期には、中間配当225円、期末配当275円の合計500円となり、8期連続増配を達成しています。業績が大きく拡大した両年度には、配当額も引き上げられました。(有報 2022年3月期、2023年3月期)

2024年3月期の年間配当額は100円で、株式分割前の500円に相当し、実質的に前期と同額でした。同年度は塩化ビニル樹脂や半導体関連製品の市場調整によって営業利益が減少しましたが、年間配当額は維持されています。(有報 2024年3月期)

2025年3月期は、中間配当53円、期末配当53円の合計106円となり、前期から6円増配しました。2026年3月期も年間106円の配当を予定しており、営業利益が減少する中でも前期と同水準の配当額を維持する方針を示しています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

株式分割の影響を調整すると、年間配当額は2022年3月期の80円から2026年3月期の106円へ増加しています。一方、2024年3月期と2026年3月期には増配を見送っており、毎期一律に配当を増やすのではなく、業績や財務状況を踏まえながら安定的な配当を継続する姿勢が表れています。

自己株式取得の推移

信越化学工業は、配当に加えて自己株式取得を株主還元の手段として活用しています。2024年3月期には取得の必要性を適宜判断する方針を示し、2025年3月期以降は株価水準などを考慮した機動的な取得を明記しています。(有報 2024年3月期〜2026年3月期)

連結キャッシュ・フロー計算書に計上された自己株式の取得による支出は、2023年3月期が約2,068億円、2024年3月期が約1,077億円、2025年3月期が約1,940億円でした。配当金の支払いに加えて、自己株式取得にも継続的に資金を充てています。(有報 2023年3月期〜2025年3月期)

2025年4月25日には、5,000億円の自己株式取得を実施する方針を発表しました。この取得は2025年3月期末後に発表されたものであり、同年度の自己株式取得実績とは区別されます。(有報 2025年3月期)

その後、2026年3月期には自己株式の取得による支出が約5,000億円となり、対象期間中で最大の規模となりました。同年度には長期借入れによる約2,300億円の資金調達も行われており、大規模な自己株式取得と借入金の増加が同じ年度に発生しています。(有報 2026年3月期)

さらに2026年4月28日には、新たに2,500億円の自己株式取得を実施する方針を発表しました。これは2026年3月期末後の発表であり、同年度のキャッシュ・フローに含まれる約5,000億円の取得支出とは別のものです。(有報 2026年3月期)

5年間の株主還元の変化

2022年3月期から2023年3月期にかけては、営業利益の大幅な拡大とともに増配を実施しました。その後、2024年3月期には営業利益が減少する中でも年間配当額を維持し、配当性向の中長期的な目安を35%前後から40%へ引き上げる方針を示しました。

2025年3月期には増配を実施するとともに、40%前後の配当性向を目安として明記し、大規模な自己株式取得も発表しています。2026年3月期には営業利益が減少する中で配当額を据え置き、自己株式取得による支出は約5,000億円に達しました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

対象期間を通じて、安定配当と将来の成長投資を両立させる方針は維持されています。その一方で、配当性向の目安の引き上げ、ROEや資本コストへの配慮、自己株式取得の拡大によって、株主還元の実施方法には変化が見られます。

主要な経営指標等の推移

信越化学工業の2022年3月期から2026年3月期までの主要な連結経営指標を示します。数値は原則として2026年3月期の有価証券報告書に掲載された5期分の実績を使用し、営業利益と税引前利益については連結損益計算書の数値を補っています。

売上規模と利益の推移

指標2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期2026年3月期
売上高2兆744億円2兆8,088億円2兆4,149億円2兆5,612億円2兆5,740億円
営業利益6,763億円9,982億円7,010億円7,421億円6,352億円
税引前利益6,961億円1兆202億円7,957億円8,262億円7,085億円
当期利益※15,001億円7,082億円5,201億円5,340億円4,745億円
ROE※216.3%19.7%12.8%12.0%10.4%

※1 当期利益:親会社株主に帰属する当期純利益
※2 ROE:自己資本利益率

(有報 2022年3月期〜2026年3月期。金額は億円単位に四捨五入)

売上高は2023年3月期に2兆8,088億円となり、5年間で最高水準に達しました。その後、2024年3月期には塩化ビニル樹脂や半導体関連製品の市場調整などを背景に減少し、2025年3月期と2026年3月期には2兆5,000億円台となっています。

営業利益は2023年3月期の9,982億円をピークに、2024年3月期に減少、2025年3月期に回復した後、2026年3月期には6,352億円へ減少しました。2026年3月期の売上高は2024年3月期を上回っていますが、営業利益は同年度を下回っており、売上規模の回復が営業利益の回復に直結していないことが分かります。

税引前利益と当期利益も2023年3月期が対象期間中の最高水準でした。2025年3月期には営業利益の回復に加え、三益半導体工業の連結子会社化に伴う段階取得差益などが特別利益に計上されました。一方、2024年3月期から2026年3月期にかけては事業再構築費用も発生しており、税引前利益には営業利益の変動だけでなく、各年度の特別損益も反映されています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

ROEは2023年3月期の19.7%をピークに低下し、2026年3月期には10.4%となりました。当期利益が2023年3月期の7,082億円から2026年3月期には4,745億円へ減少する一方、自己資本は対象期間の初年度を上回る水準となっており、利益水準と資本規模の変化がROEの低下に表れています。

資産・資本とキャッシュ・フローの推移

指標2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期2026年3月期
総資産額4兆534億円4兆7,304億円5兆1,480億円5兆6,366億円5兆6,619億円
純資産額3兆4,292億円4兆263億円4兆4,241億円4兆8,376億円4兆6,433億円
自己資本比率82.1%81.8%82.7%82.6%78.7%
営業CF※35,535億円7,880億円7,552億円8,819億円7,127億円
投資CF※3△2,537億円△1,865億円△1兆992億円△1,426億円△5,448億円
財務CF※3△1,225億円△4,236億円△3,695億円△4,549億円△5,048億円
現金等期末残高※41兆89億円1兆2,473億円5,901億円8,827億円5,621億円

※3 営業CF・投資CF・財務CF:それぞれ営業活動・投資活動・財務活動によるキャッシュ・フロー
※4 現金等期末残高:現金及び現金同等物の期末残高

(有報 2026年3月期。金額は億円単位に四捨五入)

総資産は5年間を通じて毎期増加し、2022年3月末の4兆534億円から2026年3月末には5兆6,619億円となりました。純資産も2025年3月末までは毎期増加しましたが、2026年3月末には自己株式の増加などによって減少しています。

自己資本比率は2022年3月期から2025年3月期まで81〜83%程度で推移した後、2026年3月期には78.7%へ低下しました。最終年度には長期借入金の増加と大規模な自己株式取得があり、財務構成に変化が表れています。(有報 2025年3月期、2026年3月期)

営業キャッシュ・フローは対象期間の全年度でプラスとなり、2025年3月期の8,819億円が5年間で最大でした。2026年3月期には税引前利益の減少や法人税等の支払額の増加などにより7,127億円へ減少しましたが、引き続きプラスを維持しています。

投資キャッシュ・フローは全年度でマイナスとなりました。特に2024年3月期は約1兆992億円のマイナスとなっていますが、同年度は設備投資に加えて定期預金の積み増しが大きく影響しています。2025年3月期には定期預金の払戻しによってマイナス幅が縮小し、2026年3月期には再び定期預金の積み増しや設備投資などによってマイナス幅が拡大しました。(有報 2024年3月期〜2026年3月期)

財務キャッシュ・フローも全年度でマイナスとなっています。各年度の配当金支払いや自己株式取得が主な資金支出であり、2026年3月期には約5,000億円の自己株式取得と約2,300億円の長期借入れが同一年度に発生しました。

現金及び現金同等物の期末残高は2023年3月末に1兆2,473億円となった後、大きく変動し、2026年3月末には5,621億円となっています。この変動には定期預金への資金移動、設備投資、自己株式取得などが関係しています。(有報 2023年3月期〜2026年3月期)

1株当たり指標

指標2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期2026年3月期
BPS※51,601.45円1,918.37円2,133.17円2,375.48円2,400.39円
EPS※6240.76円347.84円259.41円269.52円252.69円

※5 BPS:1株当たり純資産
※6 EPS:基本的1株当たり当期純利益

※2023年4月1日に普通株式1株を5株とする株式分割を実施しています。上表の1株当たり指標は、2022年3月期の期首に株式分割が行われたと仮定して算出された数値です。そのため、対象期間を通じて株式分割の影響を調整した比較が可能です。

(有報 2026年3月期)

BPSは2022年3月期の1,601.45円から2026年3月期には2,400.39円へ増加し、5年間を通じて毎期上昇しました。2026年3月期は純資産総額が減少したものの、BPSは前期の2,375.48円から上昇しています。同年度には大規模な自己株式取得が実施されており、純資産総額と1株当たり純資産の推移には違いが見られます。

EPSは2023年3月期の347.84円をピークに、2024年3月期には259.41円へ低下しました。その後、2025年3月期には269.52円へ回復しましたが、2026年3月期には252.69円となっています。BPSが継続して増加した一方、EPSは事業環境の変化に応じて増減しました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

5年間の指標から見た特徴

対象期間の主要指標には、収益性と資産規模で異なる動きが表れています。

売上高、営業利益、税引前利益、当期利益、ROE、EPSは、2023年3月期に対象期間中の最高水準となった後、市場環境の変化を受けて低下しました。一方、総資産とBPSは2026年3月期まで増加を続けています。

また、営業キャッシュ・フローは5年間を通じてプラスを維持しましたが、投資・財務キャッシュ・フローには設備投資、定期預金の増減、自己株式取得、借入れなどの影響が表れています。特に2026年3月期には、営業利益やROEが低下する一方、自己株式取得と借入金の増加によって財務構成にも変化が生じました。

これらの指標からは、2023年3月期を境とする収益環境の変化と、その後も継続した設備投資・資産規模の拡大、さらに対象期間後半における株主還元と財務構成の変化が確認できます。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

5年間を通して

2022年3月期から2026年3月期にかけて、信越化学工業は生活環境基盤材料、電子材料、機能材料、加工・商事・技術サービスの4事業を基本構成として維持しました。世界最高水準の技術・品質、生産性の向上、安定供給を重視する経営方針も一貫しています。一方、電子材料事業では2024年11月に三益半導体工業を完全子会社化し、半導体シリコン加工を担う事業会社の連結範囲が拡大しました。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

業績面では、塩化ビニル樹脂や半導体関連製品の需要拡大を背景に2023年3月期まで過去最高益を更新しましたが、その後は市場環境が変化しました。2024年3月期には塩化ビニル樹脂や半導体関連市場の調整によって営業利益が減少し、2025年3月期には電子材料事業や機能材料事業を中心に回復しました。2026年3月期にはAI関連需要を背景に電子材料事業が増益となる一方、塩化ビニル樹脂の市況低迷によって生活環境基盤材料事業が大幅に減益となり、営業利益は再び減少しています。事業ごとの市場環境の違いが、対象期間後半の業績に表れています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

この間も設備投資と研究開発は継続されました。総資産は2022年3月末の4兆534億円から2026年3月末には5兆6,619億円へ増加し、建設仮勘定も初年度を大きく上回る水準となりました。研究開発では半導体の微細化に対応する先端材料の開発が進み、2026年3月期にはAIや高速通信に関連する事業機会への対応がより具体的に示されています。収益が変動する中でも、既存事業の生産能力や先端材料の開発に向けた取組が継続した5年間でした。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

財務面では、営業キャッシュ・フローが5年間を通じてプラスを維持した一方、2026年3月期には約5,000億円の自己株式取得と約2,300億円の長期借入れが行われ、純資産や自己資本比率にも変化が生じました。株主還元については、安定配当を重視する基本方針を維持しながら、配当性向の中長期的な目安を35%前後から40%前後へ引き上げ、自己株式取得の規模も拡大しています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

また、世界各地の製品市況や為替変動、原材料調達、技術革新への対応は継続的な経営課題でした。気候変動への対応では、温室効果ガス排出削減の目標や管理体制が具体化されるなど、サステナビリティに関する取組も進められています。(有報 2022年3月期〜2026年3月期)

この5年間は、4事業を基盤とする事業構成と技術・品質を重視する経営方針を維持しながら、製品市況の好転と悪化による収益変動を経験し、設備投資・研究開発、電子材料事業の連結範囲拡大、株主還元方針の変更が進んだ期間と整理できます。

出典:信越化学工業株式会社 有価証券報告書 2022年3月期〜2026年3月期

免責事項

本ページに掲載している財務情報・指標は、有価証券報告書等の公開情報をもとに作成していますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。

本ページの情報は投資判断の参考情報として提供するものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終判断は、ご自身の責任で行ってください。